人的資源管理とは
皆さんは、経営資源をご存知でしょうか。経営資源とは、企業経営に欠かせない4つの資源を指しており、①ヒト、②モノ、③カネ及び④情報をいいます(経営資源に関しては、別の機会に詳しく議論しましょう。)。本記事で議論する人的資源管理は、この①ヒトに焦点を当てたものになります。
人的資源管理(英:Human Resource Management、HRM)とは、組織内において働く人々(労働者)を管理する活動をいいます。人事管理、労務管理、人事労務管理などと呼称される場合もありますが、その意味はほとんど同じです。企業における人的資源管理は、経営に欠かせないヒト(人的資源)を確保し、有効的に活用することによって、企業経営を行い目標を達成することを目的として行われます。労働者は、人間であり、コンピュータや機械とは異なります。人的資源管理は、こうした前提の下で、一人ひとりが能力や意欲を発揮できるような就業環境や社内制度を整えることが使命なのです。
人的資源管理のプロセス
人的資源管理がつかさどる機能は、主に5つに分類できます。
- 採用機能
- 配置機能
- 育成機能
- 評価機能
- 処遇機能
第一に「採用機能」です。企業は、外部から人材を獲得するため、募集や選考を行い、労働契約を通じて雇用します。新卒採用や中途採用(キャリア採用)などは、この過程にあたります。
第二に「配置機能」です。採用した人材を、適性検査などからその人に適した部署へ配属させます(初任配置)。適材適所のために部署を変えたりすることを人事異動といいますが、これもこの過程にあたります。
第三に「育成機能」です。採用した人材などは一から教育する必要があることがほとんどですから、仕事を通じて職業能力を育成するための育成をする必要があります。方法として、OJTやOff-OJT(On the Job Training。詳しくは別の機会に。)があります。また、会社独自の資格取得支援や社会人学生サポートなどのキャリア支援を行うことも、この過程にあたります。
第四に「評価機能」です。働いている労働者を正しく公平に評価します。当該労働者の能力やスキル、業績や態度などからあらかじめ設定した基準に沿って評価します。この評価結果に基づいて、次の処遇や育成、配属などにも活用されます。
第五に「処遇機能」です。働ている労働者に給与その他の報酬を与える機能です。先ほどの評価や企業全体の業績に応じて報酬を与えます。この処遇によって労働者自身の勤労意欲を向上させたり、能力スキルの向上を目指させることができます。
上記5つの機能をプロセスとして行い、かつこれをサイクルとして繰り返して行う必要があります。それぞれ機能が単独かつ独自に行ってしまうと企業全体の方向性やバランスが曖昧となり、労働者に混乱を生じさせるほか、企業内部の制度システムが矛盾を起こし、トラブルの原因になったりすることも想定されます。したがって、人的資源管理は、予め企業全体のマネジメント方針の下に、一貫した制度設計が必要となります。
補論:日本的経営
皆さんは、『日本的経営』という言葉を聞いたことはあるでしょうか。日本的経営は、1958年にアメリカ合衆国の経営学者ジェームズ・アベグレン(James Abegglen、1926年~2007年)が、著書「日本的経営」の中で、当時の日本企業における人的資源管理の特徴を明らかにしたものになります。また、1970年には、OECD(経済協力開発機構)の発行した「対日労働報告書」の中においても、日本的な経営制度に関する特徴を挙げました。
上記の2文献では、①終身雇用、②年功序列、③企業別労働組合の3つを日本的経営の特徴に上げました。これは後に「(日本的経営の)三種の神器」と呼ばれるようになりました。
終身雇用は、定年制を、年功序列は、勤続年数によって業績に関わらず自動的に給与が上がる制度を、企業別労働組合は、企業ごとに労働組合を結成する制度を指しています。これらの詳細については、別の機会に詳しく議論したいと思います。
まとめ
本記事では、人的資源管理について議論しました。要点をまとめると、次のとおりとなります。
- 人的資源管理とは、組織内において働く人々(労働者)を管理する活動をいう。
- 人的資源管理のプロセスは、①採用、②配置、③育成、④評価と処遇の5つの機能である。
- 日本的経営は、1970年代頃における日本企業の人的資源管理の特徴を挙げたものであり、①終身雇用、②年功序列と③企業別労働組合の3つがある。
参考文献
- 西村孝史・島貫智行・西岡由美(2022)『1からの人的資源管理』碩学舎。